晴れ、風がきんもちイイ

  • 朝から劇場

今朝、駅へと向かう道すがら我が左足の靴下がスニーカーの中でずりずりとずり下がってきた。なんと清清しく爽快な朝だ!素晴らしい一日の幕明けだ!などとご機嫌に家を飛び出したまでは「サイコー!素晴らしい一日の始まりの予感」で煌き輝くベルがガランゴロンと鳴り響いていた、が、しかし我が家から数mほど歩を進めたたけでその響きは耳を塞ぎたくなるような不協和音へと変わっていった。ガベゴゴゴオオオオン、と。


一歩、一歩、ぎゅむぎゅむと大地を踏みしめる毎に、ずり、ずり、ずるり、とずり下がる左足の靴下。ずり下がる度にむずむずむず。不快。ちょう、不快。どうにか、どうにか踵丸出しだけはご勘弁を!の願いを込めて一歩を踏み出すも、容赦なく左足の靴下はずるり、ずるり、とつま先へと向かって移動してゆく。「何故だ!何故キミはボクの側から離れていってしまうのだ!お願いだ、ボクにはキミが必要なのだ!頼む、このままボクの側から離れないでおくれ。時が、そう時が二人の間を別つまで…!!クツシータ(靴下)!!」とのカカット(踵)の願い届かずにクツシータは「ああ、カカット…ごめんなさい。アナタの気持ち、わたし凄く嬉しいの。アナタと居たらきっと、ううんずっと幸せで居られると思うのでも…、でもわたし、やっぱりあの人、ツマサキース(つま先)の事が…!!ご、ごめんなさい…」とヨヨと泣きながらカカットの許を去るのであった。ああ、愛の左足三角関係。そして本当に愛すべき人ツマサキースの許へと向かうクツシータであった。


などとずり下がる靴下をままに、毎度お馴染み頭の裏側のドアをこっそり開けて駅までえっちら向かい、駅のホームのベンチに腰掛け左足靴下をしかるべき状態に戻した。結果、クツシータは最愛の人ツマサキースとの再会を果たせぬままにその生涯に幕を閉じたのであった。ああ悲恋。