枡席から、

九月最後の月曜日に降る、雨。

  • 一日

始まってしまった月ようびを嘆き悲しみ、日ようびから抜け出せないままの身体を引きずって駅へと向かう山道で「とれたてのまつたけ。どう?安くしとくから。お買い得、お買い得。」と、はくびしんに声を掛けられた。「まつたけ?」と、問うわたしに「まつたけ!」と、言ってはくびしんは両の前足をわたしへと差し出した。差し出された前足には、湿り気を残したままの土に塗れたまつたけが二本握られていた。なかなかの大きさであった。「この山で見つけたの?」と、問うわたしに「違う。中国産。さっき、今、中国からもってきた。とれたて。」と言いながら、はくびしんは両の前足をわたしの鼻先ほど近くまで勢いよくぎゅー、と伸ばした。「二本でせんごひゃくえん」「お買い得」「おいしい」「せんごひゃくえん、安い」と言いながらさらに前足をぎゅー、ぎゅーと伸ばしてきた。まつたけの香りよりも、土くさいそれ、と、はくびしんの何とも言えない獣臭さと勢いに怯み後ずさるわたし。尚もぎゅーぎゅー詰めよるはくびしんに、これから電車に乗って仕事に行かなければならない、せっかくだけれどもまた次の機会に。と、はくびしんの気を悪くさせぬよう丁重に断りを入れ駅へと急ぐ。はくびしんは、しばらくわたしの後を「今日、今、逃したらもう無いよ」「安い」「美味しい」「まつたけ、中国産とれたて」「もう、せんえんでいいよ」「買って」と言いながらぴょこぴょこ付いて来た、が、はくびしんの宿敵である鈴木の爺さんが山道のふもとでゴミを拾っている姿が見えるや否や、ひゃっ、と言って、くるり回って木立の中へと逃げ帰った。ふもとで鈴木の爺さんと挨拶を交わしながら「鈴木の爺さんがいなかったら千円まで下がったあのまつたけは、あと幾ら下がったのだろう」と、げすな事をぼんやり思った。八百円ぐらいまで下がったら、多分、買っていたな。

と、いった訳(?)で、相変わらずのちまちま漬けの合間に、枡席で殿様気分で相撲観戦(枡席ではお酒が呑み放題!フアンタステイツク!)したり、こりこりに固まった首やら肩やら背中やらに針を打ったり、とそれなりに楽しく過ごしております、です、はい、元気です。と誰其彼無く報告してみました、の巻。